商品を仕入れて販売する商業を営んでいる場合や、材料を仕入れて製造しそれを販売している工業を営んでいる場合、会計処理として『棚卸資産』というものが発生します。
この棚卸資産は会計の基本事項の1つなので、財務諸表を読むときには当然必要な知識ですし、事業をされている方でご自身で記帳をされている方は知っておくべき知識となります。
今回は棚卸資産というのがどういう概念のものなのかと、その金額の計算方法について簡単に説明したいと思います。
棚卸資産は販売目的の資産
企業会計では、企業の財政状態を『資産・負債・純資産』という3つの区分で表現しますが、棚卸資産というのはこの内の資産の部に属するもので、その中でも販売目的で保有している資産のことを指します。
ここでのポイントは『販売目的』という部分で、物自体は同じでも事業内容によってそれが棚卸資産に分類されるかどうかが変わります。
例えば、自動車を保有している場合、通常は車両という固定資産として会計処理される形になります。ですが、その企業の事業が自動車販売業だった場合、同じ自動車であっても販売する目的で保有しているため棚卸資産となります。
原材料を仕入れる→製品を作る→販売する→売上債権を回収する→原材料を仕入れる→・・・
というサイクルを正常営業循環と会計では呼びますが、このサイクルに入る『原材料、仕掛品、製品・商品』というようなものが棚卸資産に分類されるということです。
連続意見書に記載されている棚卸資産の範囲
企業会計が意識すべき法律や規則として、まず最初に『企業会計原則』というのがあり、『商法(今の会社法)』の改正や、『証券取引法(今の金融商品取引法)』の設定、『税法』の規定など、多数の影響する法律等が増えていきました。
それぞれの整合が取れていて迷わない状態ならよかったのですが、それらが乱立して混沌としている中で、それらの要件毎に財務諸表を作るのは現実的ではないということで、それらの調整をするために出てきた文書が『連続意見書』というものです。
少し補足のために脱線しましたが、その連続意見書には棚卸資産の範囲として以下のような記載があります。
連続意見書第四 棚卸資産の評価について
- 通常の営業過程において販売するために保有する財貨または用益
- 販売を目的として現に製造中の財貨または用益
- 販売目的の財貨または用益を生産するために短期間に消費されるべき財貨
- 販売活動および一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨
棚卸資産の取得原価の算定
会計処理としては棚卸資産を取得した時に取得原価を算出して該当の勘定で計上するわけですが、その取得原価は『購入代価 + 付随費用』で算出することになります。(付随費用のことを副費と呼ぶこともあります)
例えば、販売用の商品を単価100円で300個仕入れて、配送料として5,000円掛かったとすると、商品の代金30,000円と配送料5,000円を合計した35,000円で計上するわけです。その際に、値引きや割り戻しがあった場合は、その金額を購入代価から控除します。
ただ、割引の場合は金利の調整という性質を持っているので、購入代価から控除はせずに、営業外収益に計上します。
上記の説明は『商品』の場合で、自社で製造して販売する場合は、実際原価計算や標準原価計算などの適正な原価計算基準に則った形で算定した金額を取得原価として計上することになっています。
今回は棚卸資産の概念と取得原価の算定方法について書きました。会計処理としては、この後の払出し数量と単価の計算方法が重要で、これについては長くなるので、別の記事に書きたいと思います。